通訳のお仕事というと、きれいな会議室でスマートに会話をサポートする。そんなイメージをお持ちの方も多いかもしれませんね。
でも、私たちが向かうのはそんな場所ばかりではありません。時にはヘルメットを被り、安全靴を履いて、危険がともなう建設現場の最前線に立つこともあります。
今日は、私がこれまでの経験の中で冷や汗をかき、心に残っている「現場でのひとコマ」をお話しさせてください。
職人さんの誇りと、エンジニアの理屈

それは、ある大きな建設プロジェクトでの出来事でした。不具合の確認のために立ち会い検査を行うことになったのですが、現場の空気は最初からピリピリと張り詰めていました。
一方には、日本の現場を長年支えてきた職人さんたち。「自分たちの仕事に手抜きはない」という強い誇りを持っていらっしゃいます。もう一方には、海外から視察に来た若いエンジニアたち。大学院を出て、数字や成果をシビアに判断するプロフェッショナルです。
叩き上げの職人さんと、理論派のエリート。背景も大切にしているものも違う二組が顔を合わせるのですから、通訳としての私も気を引き締めて臨みました。
「金は払わない」の一言と椅子が飛んだ日

恐れていた衝突は、お金の話が出た時に起きてしまいました。
図面通りに施工したにもかかわらず、海外側のエンジニアが「期待した成果が出ていないから、見積もり通りには出さない」と言い出したのです。これには職人さんたちが激怒しました。
- 「図面通りにやったのに、後から文句をつけるのか」
- 「ふざけるな、もう仕事はやめる!」
- 「訴えるぞ!」
怒号が飛び交い、ついには椅子が投げられるほどの乱闘寸前の騒ぎになってしまったのです。
日本人からすれば「筋を通してほしい」という怒りですが、スペイン語圏のクライアントからすると、職人さんたちの剣幕と言葉はまるで脅迫のように聞こえ、反応したばかりなのです。お互いの正義がぶつかり合い、プロジェクトは今にも空中分解しそうでした。
「お疲れ様」という魔法の言葉
私はスペイン人エンジニアたちにあるアドバイスをしました。
「日本では、仕事を終えた相手に『お疲れ様』と声をかけるだけで、敵意がないこと、相手を労う気持ちが伝わるんですよ」と。そして後日、彼らがたどたどしい日本語で「オツカレサマ」と声をかけた時、現場の空気が変わったのを肌で感じました。
日本人職人さんたちも「お疲れ様!」と返事するようになりました。
お互いに敵意がないこと、双方の言い分、そして感情を丁寧に整理して伝えたことで、なんとか工事の中止という最悪の事態を避けることができたのです。

言葉の先にある「心」を伝えたい
もしあの時、ただ言葉を右から左へ流すだけの通訳しかいなかったら、職人さんは現場を去り、プロジェクトは延期あるいは中止になっていたかもしれません。
私たちが大切にしているのは、単なる語学力ではありません。現場では嘘をつかない誠実さ。できること、できないことをはっきり伝える強さ。そして何より、異なる文化を持つ人同士の「心」をつなごうとする想いです。
言葉の壁だけでなく、心の壁も取り払う。それが、私たちが考える通訳の仕事です。難しい交渉や、熱い想いが交錯する現場こそ、ぜひ私たちにお任せください。言葉以上の安心を、お届けいたします。
